デリケートな心に寄り添う訪問診療。暖かい人間関係を築く精神保健福祉士の奮闘とやりがい。

デリケートな心に寄り添う訪問診療。暖かい人間関係を築く精神保健福祉士の奮闘とやりがい。

新しい医療・福祉モデルを追求し、メンタルケアこそ在宅医療の必要性があると考え、一般内科診療に加え、統合失調症やうつ症状などの精神症状を持ち、受診が困難な方への訪問診療・精神科訪問看護を行う医療法人社団心翠会。一対一の心を持った人間として、一人ひとりの患者さまと向き合い、暖かい人間関係に基づく医療・福祉を推進しています。今回は、同法人内、川崎ファミリーケアクリニックで働く精神保健福祉士の長瀬萌々さん、網倉実成さんに仕事のやりがいについてお話しをお聞きしました。

些細なきっかけから福祉の道へ。入職して知る難しさとやりがい。

▲優しい雰囲気の長瀬さん。患者さまにも丁寧に向き合います。

1人目のインタビュイーは入職2年目の長瀬萌々さん。福祉専門の大学を卒業され、新卒で同法人に入職しました。元々は医療・福祉を志していたわけではなく、高校時代に生徒会へ入会し、顧問の先生に勧められたことがその後の進む道に影響を与えたのだといいます。

長瀬「生徒会の顧問の先生がJRC部という赤十字の活動をされていて、部員が足りないから入部してほしいと頼まれたのが、福祉にかかわった一番最初の出来事です。部としてボランティア活動に参加することが多く、『こうした活動に向いているから福祉系の大学に進んでみたら』と先生の後押しがあり、進学先を決めました。『熱い夢があって』とか、『福祉の仕事がやりたくて仕方がない』というわけでありませんでしたが、勧められたことに大きな抵抗はなかったですね。福祉系の授業や実習を中心に4年間勉強していたので、漠然と福祉の道に進むんだろうなと考えていました。」

就職活動は一点突破。ここで働きたいとエントリーし、他の企業や病院を受けることなく内定が決まりました。

長瀬「面接は今の上司にあたる部長と先輩が同席されていました。医療・福祉系は真面目な方や静かな方が多いイメージを持っていた中、部長がとてもフランクにお話しされていたので『本部の人事の方かな?あまり福祉っぽくない方もいるんだな』と思いつつ、想像していた面接とは違っていたので緊張が一段階和らぎました。

面接でお話しした際のクリニックのイメージもあり、楽しく仕事できそうだと期待して入職しました。半年間は先輩に同行して、実際の訪問看護の様子や診察の様子を見たり、週に1回の新人研修で基本的な病気の説明や薬についての説明、あとは事例を見ながら業務を覚えていきました。」

半年の研修期間を経て、先輩からの許可が下り、患者さまの元へ訪問がスタート。一人立ちしたばかりの頃は、仕事に慣れるため1日3件ほどと少ない訪問数から始まります。一人で訪問するようになり初めに苦労したのはご自宅までの道を覚えること。個人宅を訪問するため、目立つ標識がなかったり、細い道を通らなければいけなかったりと地図アプリを片手に彷徨うことも少なくなかったといいます。

初めての経験の連続に戸惑うことも多い中、患者さまとのコミュニケーションには様々な感情が沸き上がるのだそう。精神症状に向き合う大変さがある一方で喜びを感じることも多くあると語ります。

長瀬「初めて訪問する患者さまの場合は、お互いに緊張しているので『体調はどうですか?』『お薬は飲めていますか?』といった基本的な質問をすることが多いのですが、訪問の回数が多かったり、お付き合いが長くなると顔を覚えていただけて、世間話もできるようになっていきます。その方がどんなものが好きかとか、以前にどんな仕事をしていたとか、打ち解けて会話できるようになってくると、自分のテリトリーに入れてくれたように感じて嬉しくなりますね。

一人で回るようになってから約1年半経って、最初の頃から訪問している方は、友達とまでは行かないけれど、お互いに心を開いて会話をしてきました。ただ、それが当たり前だと思ってはいけないと感じていて、自分はその方にとって親族でも友達でもなく、支援者だという意識をしっかり持って接していかなければと感じています。」

部長からは「相手が望んでいないことにまで対応して、患者さまの力を奪ってしまってはいけない」とアドバイスがあり、慣れ合うだけではなく、支援者として資格の中で自分が対応できるものかどうか、回復の妨げになってしまうことはないかを考え、明確な線引きも必要な仕事だと感じているといいます。全ての患者さまが回復に向かうことはなかなかありませんが、そうした中でも、病状の悪い患者さまがゆっくりと時間をかけて、回復に向かっていく姿を見ると、大きなやりがいに感じると話しました。

横の繋がりを大切に。風通しの良さを感じる瞬間。

▲面接時からお世話になっている作間部長には、学ぶことが多くあります。

同法人に入職する以前は、業界的に堅いイメージを持っていたという長瀬さん。面接の際から風通しの良さを感じており、入職後も役職にかかわらず、同じ目線で向きあえる環境に働きやすさを感じています。

長瀬「学生時代の実習では、資格によってやるべきことが明確に分けられていて、相談するのも同じグループ内で行うことが当たり前だと感じていました。川崎ファミリーケアクリニックに入って驚いたのは、先生や看護師さんも交えて相談し合えること。自分たちの領域だけで完結せず、他の職種の先輩方や先生方からアドバイスをいただけることが多いと感じます。入職したてだと分からないことも多い中で、先輩や部長にも報連相がしやすいので、次に何をしたらいいかの指示を仰ぐこともできるので働きやすいと感じていました。」

同法人の魅力はコミュニケーションの質の高さ。暖かい人間関係による医療・福祉を推進しているからこそ、普段からヒエラルキーを感じることはないのだといいます。訪問の際には先生に同行することもあるため、昼食を一緒に取り、世間話に花を咲かせることもあるというから驚き。コロナ禍の影響により現在は行えていませんが、歓迎会や忘年会などの職場内のお酒の席にも役職にかかわらず、みなさん積極的に参加されるのだといいます。

長瀬「最低限のルールはありますが、厳しい上下関係はないので仲良く働けているなと感じます。先生とは気軽にお話しできますし、看護師さんも柔らかい印象の方が多いです。相談するとしっかりと向き合ってくださる方が多いので、一緒に働くとしたら目線を合わせてお話しすることができる、ふんわりとした雰囲気の方が向いているのではと思います。」

最後に、長瀬さんの今後の展望についてお伺いしたところ、法人内だけでなく地域の方との繋がりも大切にしていきたいと話します。

長瀬「入職するまでは患者さまだけを相手にする仕事だと思っていましたが、他の病院の方や介護にかかわる方、薬局の方、行政機関の方など、幅広く接する機会があることを知りました。川崎市の行政の方が支援に関する勉強会を開いてくださる機会があるので、そうした場で顔見知りの方が増えていけば、万が一の時に相談したり助けを求めることもできるはず。そうした横の繋がりを地域で作っていけたらいいなと思います。」

支援者の輪が広がれば、一人でも多くの患者さまの回復に後押しすることができる。そんな希望をもって、長瀬さんは人との繋がりを大切にしていきます。自分にできる役割を全うするために、これからも真摯に患者さまに向き合っていきます。

厳しさと喜びは表裏一体。関係構築を大切にする患者さまとの向き合い方。

▲主任に任命されてから2カ月目。意欲に溢れています。

2人目のインタビュイーは長瀬さんの直属の先輩にあたり、2020年7月より主任に昇格した網倉実成さん。網倉さんも長瀬さん同様、元々福祉の道を目指していたわけではなかったといいます。大学でライフデザイン学部に入り、3年生のコース選択の際に精神医学に興味を持ち、本格的に研究を始めたのだとか。

網倉「同じコースの友人たちに話を聞くと『昔こんなきっかけがあって福祉に興味を持った』という話をよく聞いたんですが、僕はそういうきっかけは全然なくて。1・2年で生活支援や医学の授業があり興味を持つようになって、もう少し学んでみたいなと思ったんです。

就職活動も元々は他の一般企業に内定をいただいていたんですが、4年生の2月に精神保健福祉士の資格の結果が出て、せっかくの資格を活かして働きたいと感じるようになりました。内定いただいていた企業には申し訳ないけれど内定辞退して、クリニックや病院で働きたいと探している中で一番最初に目に留まったのが川崎ファミリーケアクリニックだったんです。」

精神科の病院が訪問看護を行うことや、個人クリニックの先生が自転車で行ける範囲で訪問診療することはあっても、広い範囲で訪問診療をメインにしているクリニックは珍しい。患者さまのご自宅に伺うことにも興味を持ち、4年生の3月に面接を受け、内定をいただいたのだといいます。

網倉「入職したての頃に、先輩によく指導していただいたのは礼儀作法。外来ではなく患者さまのお宅にお伺いするので、ご家族の方が同席されることもありますし、知識以前に言葉遣いやマナーに気を付けなければならないとよく言われていました。制度や薬、病気の知識については働きながら学んでいくことができますが、礼儀作法は積極的に身に付けていく必要があり苦労しました。外来のみのクリニックに勤めていたら分からない部分だったので、いい経験をさせていただいていると思います。」

新卒で入職してから7年目、大変なことは記憶から抜けていくと冗談交じりに話す網倉さん。やりがいや印象に残っている出来事をお聞きしてみると、仕事で感じる大変さと喜びは表裏一体なのだと気づかされます。

網倉「この仕事のおもしろさは患者さまの生活が立ち直っていく様子を間近で見守られることですね。ご自宅に直接訪問するので、患者さまの生活状況がよくわかるんです。精神科の病気が進行していくとやる気が起きず、掃除が億劫になってしまうケースもあるので、初めて訪問すると部屋がめちゃくちゃになっている方もいらっしゃるんですけど、お薬をしっかりと飲んで、ヘルパーさんが手伝ってくれて部屋が綺麗になっていったり、まったく意思疎通が取れない方が取れるようになったり、うつで引きこもっていた方が外来に来られるようになったり。

回復していくプロセスをありありと感じることができるので、そこに携わることができるのが一番の楽しみですね。患者さまは表面的には見えなかったとしても苦しんでいる方なので、回復してきて『ありがとう』って言葉をいただけたり、最初はご自宅に入ることを全力で拒否されていた方が半年通うと『まあ入れよ』って言ってくださるようになったりと、関係性をしっかり作っていくことで治療のスタートラインに乗せることができます。」

訪問診療を依頼する患者さまは、外来に行けない難しいケースの方が多いため、通常では接することのない難しい場面に関わることが多いのだそう。貧困妄想や心気妄想などといった、うつ症状の妄想を持っている方への対応もあるため、感情的にならず、フラットな気持ちで関わることを心がけているといいます。人の感情や人生に寄り添う仕事でもあるため、大変な部分も感じる反面、その反動が大きなやりがいに感じていると話しました。

様々な思いにアンテナを―。主任として目指す将来の姿。

▲コミュニケーションがしっかりと取れる環境を感じています。

心の病気は誰しもがなりうる可能性を秘めている。網倉さんが入職してから驚いたのは、その患者数の多さでした。

網倉「川崎区・幸区・鶴見区を中心に活動している当クリニックだけでも280名ほどの患者さまがいらっしゃるので、他の病院やクリニックにかかっている方も含めたら、それ以上の人数だろうなと。僕の家の近所やスタッフと同じマンションの方にも患者さまがいるという話も聞くので、地域に精神科の訪問診療を必要としている方がこんなにもいるんだと、正直驚きました。

過去には、『80歳になるお父さんに介護保険を使いたい』とご連絡いただいた方のご自宅に、地域の担当者の方が訪問した際、『実は25年間、息子が引きこもっている』とお話しいただき、当クリニックに繋がったこともありますし、8050問題の影響から心を病んでしまう方も増えてきています。昔しっかりしていた方がうつ病になったり、立派だった方が認知症になると、なかなかご自身で認められないケースもあるので、誰しもがなりうる病気ではあるものの、隠れがちになりますね。」

昔気質の方ほど、精神科にかかっていること自体に偏見があり、周囲に知られると恥ずかしいと隠してしまうこともあるのだそう。そうした思いも汲み取り、訪問時に使用する車には【川崎ファミリーケアクリニック】と記載しないようにするなど、患者さまの生活圏内に影響を与えないような配慮もしています。

2020年7月からは主任へ昇格し、患者さまだけでなく後輩たちのフォローに回る機会が増えてきた網倉さん。後輩や新人スタッフへの対応で意識していることについてもお聞きしました。

網倉「部長が他の拠点にいることも多くなり現場監督が必要な状況下で、一番経験年数が長いこともあり、主任に挑戦してみたいとお話しして任命していただきました。まだ主任になって1ヶ月ほどでコロナ禍の影響もあり、仕事内容で大幅な動きはないのですが、他のスタッフから『この処置や対応で良かったか』と質問があったことに対して確認・指示出しをしています。

訪問の仕事は決して楽な仕事ではないですし、経験者なら慣れている業務であっても、新人の方たちにとっては1日クリニックにいるだけでも大変に感じたり、ものすごく疲れたりするので、辛いと感じているスタッフがいないかのアンテナを張るようにしています。訪問の先生や看護師、事務の方などは全員同じ部屋にいるので、何かしら気付いたりフォローがしやすい体制になっていると思います。」

患者さまについて困っていたり検討していることがあれば、相談している先輩だけでなく先生や看護師にも確認することができるといいます。小さくまとまっているからこそ、アンテナが張りやすく、お互いにフォローし合える環境があると感じているそうです。

最後に、網倉さんがこれから目指す姿についてお聞きしました。

網倉「部長クラスの方はクリニックを任されている方がいらっしゃいます。僕は今、この法人の中で主任を任せていただいていて、追い追いは他の部長と同様にクリニックを任されるような責任のある立場になれたらと思います。経験値として7年はまだまだ未熟な部類に入ると思うので、これからも経験を積んでいきたいと思います。」

患者さまと向き合い、回復していく姿を見届けることで得られるやりがいと、スタッフたちのフォローにもアンテナを張り、目指す姿に向かっていく逞しさ。これからも網倉さんは同法人で多くの喜びを感じ、活躍していくことでしょう。

他の方よりも、少しデリケートな心を持ち生きづらさを感じている方に、誠意をもって心で向きあう。同法人にはそんなスタッフで溢れています。

川崎ファミリーケアクリニック:https://www.one-life.site/kawasaki

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