『最期まで幸せに生きる』ことを掲げ、「最期」の瞬間まで少しでも有意義に、そして1分でも長く住み慣れた我が家で過ごしていただきたい。そんな思いから2016年4月に開設された一般社団法人つかさ 在宅看護センターLanaケア湘南。青森の看護学校を卒業し、上京後、訪問看護を行う後藤聡さん。看護業界のイメージを変えていきたいという思いを持ち、そこに至る経緯をお話しいただきました。
代表の思いに共感し、さまざまな方と接する環境へ

秋田県出身で2019年現在27歳の後藤さん。地元では希望する学科に空きがなく、青森の学校に進学しました。お姉さんが看護師をしていたのが看護業界を目指したきっかけです。就職を考えた際、東京に憧れを感じ、救急看護で働きたいと上京しました。
後藤「実際に働いてみると、救急看護は入退院が激しく、退院した後利用者さんはどうなるんだろうと気になることが多かったです。学生の頃に訪問看護の実習を経験して楽しかったこともあり、在宅医療に興味を持ったんです」
調べてみると、数は少ないながら同年代で頑張っている人もいることを知り、自分も挑戦してみたいという思いが強くなったのだそう。2年間務めた救急看護を退職し、病院付属の訪問看護ステーションに転職しました。
そちらでは病院からの利用者様が中心で一日の訪問数は3~4件ほど。利用者様の層も限られていました。ご年配の利用者様だけでなく、小児看護も精神看護も、すべてのケアができる環境を見てみたいと思い、その後、Lanaケアへ転職します。
後藤「小児や精神病などの看護は何かがあった際に責任が取れないという点から、敬遠される場合もあります。Lanaケア 岡本直美代表の「他が受け入れないところこそ積極的に受け入れていこう」という考えに共感しました。色々なケースがあり勉強になります」
忘れられないエピソード。最期の瞬間まで、幸せだと感じられる看護のあり方

Lanaケア湘南では、病院に入院されている方の一時帰宅や一時外出の際の訪問看護も行っています。その中で忘れられないエピソードがありました。
積極的な治療がなく、病院でその日がくることを待っているという方のご家族から「最後に家を見せてあげたい」 というご要望があり、保険適応外で外出支援をした時のことです。
後藤「 病室では呼びかけても返答がなく、帰宅して大丈夫かなと思いましたが、ご自宅に戻ると、それまでの表情から一変して『ラーメン10人前持ってきて!』と冗談を言い、みんなを笑わせてくれました。
病院へ戻る際、介護タクシーの運転手さんの計らいで満開の桜の前で家族写真を撮っていただいて、短い時間でしたが、楽しい時間を過ごしていただけました」
病室に戻った数時間後。それまでは若い娘さんだけの介護はできないものと思い、最期まで入院の予定でしたが、自宅での看取りを決断され、退院が決まりました。
退院後から在宅の先生方と一致団結し、その方が大好きなラーメンをどう調理したら食べられるか試行錯誤を繰り返しました。麺は刻まない方が良いか?とろみの濃度は?一杯のスプーンの中に麺とスープの割合は? など、その方だけのためのメニューづくりをして、ラーメンのスープを飲むことができました。さらに、翌日にはスプーン一口ですがネギトロ丼も食べられたそうです。
後藤「血圧が下がってきていても、ゆっくり丁寧に関わってくださった訪問入浴のスタッフの皆さんやケアマネージャーさん、退院許可をすぐに出してくださった病棟の主治医、連絡調整をしてくださったMSWさんなど、皆さんが一丸となってこの方とご家族を支えてくださいました。私たちだけでは、この穏やかなお看取りは実現しませんでした。
一つのきっかけで最期の時が大きく分かれる。せっかくなら楽しく幸せに最期を迎えてもらいたいと思います。その方はきっと今頃、 天国でチャーハンセットを召し上がっていることでしょう」
業界の流れが変わってきた。若い世代も活躍できる可能性がいまここに

訪問看護業界では女性が主流で、特に若い男性はまだまだ少ないという。後藤さん自身も20代男性の訪問看護師はあまり聞かないと話します。
在宅看護ではご自宅というプライベートスペースの内側に入るため、女性の利用者の方からは「同性の看護師にお願いしたい」と言われるケースが少なくない。一方で、訪問すると孫のように接してくれたり、喜んでくれる利用者の方がいることも実感しているのだそう。自身が入ることで、若い男性看護師の訪問看護をもっと盛り上げていきたいといいます。
後藤「小児ではお母さんの相談に乗ったり、一緒に悩んだり、成長発達を共有して喜んだりしています。認知症で不穏(認知症の周辺症状が現れている状態)のおばあさんと接した時には、少しずつ寄り添っていった結果、心を開いてくれて生活の知恵を楽しそうに教えてくれたこともある。
若いからできることもあるし、足りないこともあるかもしれませんが、接する方の命を輝かせたいと思っています」
世の中の動きとして、新卒の訪問看護が増え始めている。病院で看取るより、在宅に戻していこうという動きがあり、それに伴い医師会でも在宅で行う看護に力を入れようとしているのだとか。
後藤「スケジュール管理や医師、ケアマネージャーとの情報共有はICT化がすすみ、若い看護師が在宅医療に入りやすい環境になり始めています。厳しく感じる方もいるかもしれないですが、病院付属などで研修受けることも可能ですし、3Dで練習できる施設もあるみたいですよ」
訪問看護向けの月刊誌は実際に新卒の方が活躍されている記事があり、時代が変わってきていることも感じられます。
目指すはオーシャンブルーのかっこいい看護!

訪問看護が注目され始めている今、女性主流の風潮を男性も活躍しているイメージに変えていきたいと語ります。
後藤「看護の分野は、一般的に『白衣の天使=やさしさ』のイメージなんです。利用者様への接し方で優しさはもちろん大切だと思うんですけど、今あるイメージに男性的でかっこいい看護も加えていきたい。色で言えば『オーシャンブルー』かな。若いガッツが生かされるような、患者さんに喜んでもらえるかっこいい看護に変えたいですね。
テレビでは救急のかっこいいドラマが放送されていましたが、在宅看護をテーマにしたドラマもあったらいいなと思いますね」
男性が活躍する訪問看護のイメージを想像し、楽しそうに話す後藤さん。そんな風潮がいつか当たり前になるかも知れない。業界のイメージ革命を考える傍ら、自身のスキルもレベルを上げたいと意気込んでいます。
後藤「今後は認定看護師のような、より専門性の高い資格を取得していきたいです。こうした資格があれば 看護の幅が広がり、今より更に質の良いケアができるようになるので。自分のできることが増えれば、利用者様に対してだけでなく、今後入ってくるであろう後輩の指導にも自信を持って活かせると思うんです。」
時代の流れに合わせて、キャリアアップしていくことを今後は意識したいと語りました。周りのスタッフと互いに刺激しあい、今以上に利用者様に寄り添った看護ができるよう、より高めあっていきたいといいます。こうした強い想いを持つ方が口にすることで、個人的な目標よりも広い範囲の革命を起こしていくのかもしれません。いつか、かっこいい看護が当たり前になる世の中を夢見て、今日も奔走していきます。
一般社団法人つかさ 在宅看護センターLanaケア湘南 : http://lanacare.jp/